未活用の経営資源のリフレーミング
自社での取り組みを通して顧客との関係性の強化の重要性を痛感しておりましたが、経営資源の見直しを行った結果、弊社では社員大工による全顧客への無料巡回メンテナンスを行っています。一年に一回以上、1300件程の顧客に対して大工が赴き、1時間程度の補修や営繕工事を全て無料で行うというサービスで、この仕組みが機能し始めてから、リピート、紹介の案件が質、量ともに格段に良くなり、チラシや雑誌などの宣伝広告、反響営業を一切やめた経緯があります。
近年、私は全国の工務店や建築関連の業界団体に招かれて講演やセミナーに呼ばれることが増えました。もちろん講師役として出向くのですが、各地に赴いて感じるのは地方の工務店には立派な経営をされている企業、経営者が非常に多く、実は私の方が学ばせて頂くことの方が多いのではないかということです。
先日鹿児島の創建(有村忠一社長)の協力業者総会に呼んで頂いた時に聞かせて頂いたのは、毎年春と秋の2 回、社長をはじめ協力業者も含めた全社をあげて全顧客へのアフター訪問を一斉に行っておられるとのことでした。今年の春でなんと34年間も継続されてきたとのことで、地域と共生するという理念の真摯な実践には驚きを通り越して感動すら覚えました。無論、同社のあり方に共感した顧客からの紹介やリピートの注文は頻繁にあり、1年後までの受注を確定させるほど安定した経営を行われています。私としても自社の巡回メンテナンスの仕組みももっとブラッシュアップする余地が残されていることを学び、現在、社員と共に仕組みの再構築、顧客との関係性をより深める方策を練っています。
顧客リストの活用はもっともわかりやすい経営資源の活用の例ですが、マーケティングの根本、目指すべきは自社独自のマーケットを作り上げる事にあります。そのように考えるとコミュニティを形成する人にフォーカスをすること、スタッフや社長の個人ブランド、社歴の長さや地元との関係性などコミュニティ作りに使える経営資源はたくさんあるのではないでしょうか。
集客チャンネルの転換は意識改革から
毎月一定量の新規の受注を得る事を目標にすれば新聞折り込みチラシやインターネットを利用した広告など一般的な販促手法に偏りやすく同じ規模の同業者だけではなく、資本力のある大手と同じ土俵でしのぎを削る戦いに巻き込まれがちです。自社の特徴や強みを活かしてそのような取り組みを行い売り上げを作るのも重要かもしれませんが、それと同時に行うべきは将来の売り上げに対する種まきであり、競争にさらされず適正な利益を確保できる受注を生み出すコミュニティ作りを目標に集客のチャンネル自体をリフレーミングすると方法論は大きく変わります。自社を信頼してくれるファンを増やす試みは短期間で目覚ましい成果は見込めないかもしれませんが、長期的に見ると顧客の蓄積とともに安定した経営にシフトできる可能性を秘めているのは誰しも認めるところではないでしょうか。
このような地味で時間がかかる、すぐに成果を手にすることができない、しかし重要な取り組みを地道に推し進めるのは経営者1人の力ではどうしようもなく、顧客接点となる社員や協力会社さんとともに同じ理念、方向性を持って実践しなければなりません。たった1人の不用意な言動で長年時間をかけて育ててきた生涯顧客を一瞬にして失うことになるからです。
逆に、設計、営業、工務、職人と顧客接点にある担当者が型通りに決められた作業を行うだけではなく、意識を変えてそれぞれがそれぞれの立場で「一生御社にお願いする」とお客様に言われるような仕事をすれば、確実に未来の売り上げを蓄積することができます。そして、顧客に信頼され、生涯顧客になってもらうにはそんなに難しいハードルがある訳ではありません。当たり前のことを確実に遂行し、長いお付き合いを頂けることに実務者が意識を持って顧客に向き合えば、想いは伝わるものですし、そこに重点をおいて営業している事業所は実はあまりなく、地域で稀有な存在になれるからです。
今回は再度見直し、活用すべき経営資源について書き進めました。結局、売り上げはご縁を元に発生するもので、最も活用すべき経営資源はやはり『人』に尽きるのだと考えており、職人起業塾では顧客接点の実務者に対してその意識改革のお手伝いをしている次第です。大福帳は無限の可能性を秘めた最大の経営資源であるという江戸商人の教えを情報過多の時代にこそ見直すべきではないでしょうか。
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