自立循環型ビジネスモデルへの回帰
職人起業塾でのマーケティングの定義は、P. F. ドラッカー博士の「マーケティングの究極の目標はセリング(売り込み)を不要にすることだ」という言葉を読み換え、「自然に売り上げ、利益が上がり続ける仕組み」としています。一瞬だけ大きな売り上げを上げるのではなく、継続して儲かり続けるには信頼をベースにした独自のマーケットを作るべきで、それは「売り上げ=顧客数×単価×購買頻度」の方程式通り、生涯顧客の蓄積でしか叶えることができません。地域に根ざし、地域の人々と共に生きるポジショニングは地域で必要とされ、認められることを大きく後押ししてくれます。
そして、建築業として地域社会に貢献するには、モノづくりができなければなりません。しかし、全国の大工の平均日当が1万4000円を下回ったという報道があったように、分業化が進みコストダウンの波に洗われ続けた職人の単価は極限まで下がったままです。稼げない職種となった建築職人に若者が入職しないのと同時に、これまで職人を輩出してきた徒弟制度は完全に崩壊し、次世代を担う若い職人を育てる人はいなくなっています。
事業所が職人を守り、育てなければ誰も職人を育てることができない時代へと移ったことは読者の皆さまも肌で感じておられるのではないでしょうか。モノづくりを生業とする私たちが、工事ができないでは話になりません。職人を育てることができなければ、地域に根付いて独自のマーケットを作り上げることなど不可能なのです。
逆に、職人がいる会社、工事ができる会社という地域での認知がつけば、住宅に関わるあらゆることの相談が集まるようになります。その一つ一つは取るに足らない小さな工事かも知れませんが、顧客と繋がり続けることで将来的にライフスタイルが変わったりした時には大掛かりな工事の依頼が確実に来るようになります。これこそが原理原則に基づいたマーケティングの構築であり、未来の売り上げを確定させる方法論です。全ては種を植えて育てる、収穫した中から次の種を植えるという自然の摂理に基づいた思考がベースになっており、顧客も職人も今の利益に固執することなく時間をかけて育てる姿勢が必要だと考えています。
第9回のチェックポイント
● 本当に地域やそこに住む人の幸せを願っていますか?
▢ 地域工務店にとって、顧客だけでなく社員も職人も地域の住民
▢ 独自のマーケティングを構築するには地域と、地域を支える職人を守り、育てる姿勢が必要
職人を育てることは地域への貢献になる今の利益にとらわれず時間をかけて職人を育てるべし
次回は地域で認知を広げ、選ばれる企業になるために活用すべき工務店が持つ経営資源について考えてみます。
高橋 剛志 たかはし・たけし
すみれ建築工房(神戸市)代表。大工。自身の苦しい経験から、職人が安心して将来設計を考えられる環境こそ工務店を強くすると実感。マーケティング理論を職人に教えることで、最大の顧客接点である職人自ら営業の役目を果たしてくれると実践し、広告・販促なしで5億円の売上を達成。社員向け勉強会からスタートした「職人起業塾」は、口コミで広がり他社社員、JBN阪神など多くのネットワークを巻き込む動きとなり国交省公認教育事業に認可されている。住宅に加え、 店舗設計も多く手掛ける。社員20人。
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