本物の時代の到来
情報化革命は良いことも悪いことも含め、社会に大きな変化をもたらしました。「この世に生き残る生き物は、最も力の強いものか。そうではない。最も頭のいいものか。そうでもない。それは、変化に対応できる生き物だ」という有名な言葉がありますが、私達は大きく変わらなければ生き残れない時代に差し掛かっています。それは、嘘偽りが一切効かない、誤魔化しや不誠実などあらゆることが白日の下に晒される、そして世論に翻弄され徹底的に裁かれる時代であり、そこで生き残れるのは本物だけ、本物の時代の到来です。
言葉にするのは簡単ですが、この変化に対応するのは生半可なことではありません。周りを見渡すと規模の大小に関わらずこの社会の急激な変化を認識せず、存亡の危機に瀕しているもしくは消えてしまった企業や人の例は枚挙にいとまがありません。
例えば舛添前都知事、辞任に追い込まれた発端は、海外視察の旅費が高すぎるとか、公用車の私的使用など、非常に些細な問題の発覚でした。情報化革命の荒波が押し寄せていることに気付かなかった舛添氏はその場しのぎとも取られかねない釈明を繰り返し、納得のいかないマスコミ、そして都民は次々と彼の問題をネットに流し続け、最終的には「適法だが不適切」という迷言を残して辞任に追い込まれました。問題の発覚当初、舛添氏本人も周りの人もここまで執拗な追及が繰り返されるとは予想できなかったのだと思いますが、本物の時代の認識があれば、始めの時点で自ら政治家の慣習となっている雑費を政務活動費に計上してしまっていたことを告白し、遡って清算するなど、自分の在り方を正す行動を取れば、きっと今も知事を続けておられたのだと思います。
インスタント焼きそばのペヤングは異物混入がネット上で話題となりました。
それを受けて市場に出荷した商品を全て回収、在庫も含めて全ての商品を焼却処分とし、製造ラインを停めて二度と同じ問題が起こらないように点検と改善策を実施しました。数ヶ月にもわたり販売を中止、全く売り上げがない状態から製造・出荷を再開したところ、ネット上ではペヤング祭りと称されて販売再開を喜ぶ投稿が相次ぎ、居並ぶライバルを抜いてシェア1位の座に躍り出たのです。消費者はペヤングの企業姿勢を本物だと評価したのではないでしょうか。
逆に同じように異物混入問題が取り沙汰されたマクドナルドはそのままズルズルと販売を続け、消費者の心を逃し赤字へと転落てしまいました。企業の消費者に向き合う姿勢、企業の在り方が伝わることによって、天国と地獄に分かれる本物の時代に既に移行しているのです。
リスク意識の末端への浸透
前述の例を教訓として、私達の業務に置き換えて考えてみると、リスクの回避は経営者が在り方を正し、目先の利益に囚われずに顧客へ本当の価値を届ける決意と覚悟が必要です。その在り方が顧客に伝わり、理解されるとその顧客は生涯顧客となってくれて、未来の売り上げに必ず寄与してくれるようになるはずです。
しかし、建築業は成果物を顧客に渡すまでに多くの人やモノが介在し、そのうちのどれか一つでも不具合があれば、顧客の満足を得ることは出来ません。そして、出来上がった建物を引き渡した後も建物が存在する限りその責任を負わなければならないという厄介な業態であり、引き渡し時にいくら顧客に喜んでもらっても、住み始めてから不具合が発覚したり、アフターサービスに不備があったりするだけでそれまでの多くの人の努力は水泡と化してしまいます。
設備職人が水栓金具を取り付ける際、ネジにシールテープを巻いてねじ込んでいきますがカラン(ハンドル部分)が真上になるところで留めなけれなりません。ほんの少しいき過ぎたからといって1 ミリでもネジを逆に回して戻すと後々に水漏れが起こります。まともな職人であれば絶対にしないことですが「ほんの1 ミリくらいならいいか」と、一度取り外してやり直す手間を惜しむと数年経ってから大きなクレームが発生することになります。そしてその対応によっては、会社名を挙げて全世界に悪評を広げられ、経営難に陥る可能性さえあるのですが、残念ですがこのレベルまで現場管理者には絶対に管理することは出来ません。
経営者の決意と覚悟は実際にものづくりを行う建築現場で作業を行う末端の職人まで浸透していなければ何にもなりません。現場に携わる全ての人が本物の時代の到来を強く認識し、一つの判断ミスが会社の存在を根本から揺るがすような大問題に発展する可能性があることを理解する必要があるのです。
意識改革こそ革命の荒波を乗り越える鍵
要は今まで通りではない現場での高い意識を作業に落とし込むマネジメントが必要となるのですが、最も有効なのは現場に常駐する職人に対して意識変化を働きかける教育だと思っています。現場を管理するのではなく、理解を促し、リスク意識を共有し、何の為に工事を行うのかという高次の目的意識を浸透させること。実際にモノ作りの現場で作業する職人が経営者と同じ決意と覚悟、そして理念を持ち、経営者と同じ判断ができるようになれば、クレームを根本から叩き潰すことが出来、本物の時代への適応が果たせるようになると思うのです。
「職人起業塾」では金の卵を産むガチョウの寓話を引き合いに出して、目先の利益と利益を生み続ける本体=信頼のどちらを選択するのかという設問を繰り返し行います。人は誰しも状況によっては安易な選択をしてしまうことがあると思いますが、情報化革命の荒波は違和感を感じる行為そのものに加え、間違った選択を行う「心」や人として、企業としての「在り方」までを白日の下に晒そうとします。自分自身の体験としてその執拗さに直面したことはありませんが、ちょっとしたボタンのかけ違いにより信頼関係にヒビが入っただけで、一方的な情報発信をされて地域での信用を大きく失墜した工務店経営者もおられます。
誰もが常にそんな危険な場にいることを認識し、常日頃から危機感を持って襟を正して業務に向き合わなければなりませんし、そのマネジメントこそがこれからの時代に勝ち残る最低限の条件となるのではないでしょうか。
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