鑿を研ぐ大工、研がない大工
よく耳にする木こりのたとえ話で、刃を研がない木こりは労力と時間をかけて力任せに斧を振り続けてもなかなか木を倒すことはできないが、少しの時間をとって、刃を研ぐ習慣を持った木こりは斧を振り始めるとあっという間に木を倒すことができるという話があります。建築の世界に置き換えて造作をするのに切れる鑿を持つ大工と、刃がついてないような鑿しか持っていない道具の手入れをしない大工との違いで考えてみても分かりやすいかもしれません。鑿を研ぐ習慣を持つ大工は仕事が早いだけではなく、美しい仕上がりを生み出します。そこに信頼が生まれ、特命で工事の依頼を受けるようになります。それを繰り返して高い評価を得て、お願いされるくらいまで信頼を勝ち取れば、時間もお金も余裕を持って、大工が納得ができるさらに質の高い仕事ができるようになります。あくまでも例え話ではありますが、毎朝の刃物研ぎの習慣を持つだけで、大工としてだけではなく人としての生き方が根本から変わる可能性を秘めています。
その圧倒的な成果を生み出すスパイラルを、事業に取り込むことができれば、企業の未来を大きく変えることができます。それこそが第2領域への取り組みです。現場実務者への教育や人材の育成、全体的かつ繊細な現場マネジメントによる生涯顧客の創造、宣伝広告に頼らない顧客のストックを生かせる仕組みづくり、これらは全て対処ではなく予防の考え方であり、刃を研ぐ習慣を持たなくては叶うことはありません。緊急性の低い、重要なタスクにこそ未来があり、そのアプローチの重要性を経営者のみではなく、社員、ステークホルダーの全員が理解し、取り組む意識を持つことからマーケティングのアクションは始めるべきだと考えています。
第7回のチェックポイント
● 未来へのアクションを怠っていませんか?
▢ 緊急度は低いけど重要なタスクに取り組んでいますか?
□ 即効性のあるチラシに頼って新規客ばかりを追い続けていませんか?
目先の課題への「対処」だけでなく、長期的な視野に立った「予防」的取り組みが必要
高橋 剛志 たかはし・たけし
すみれ建築工房(神戸市)代表。大工。自身の苦しい経験から、職人が安心して将来設計を考えられる環境こそ工務店を強くすると実感。マーケティング理論を職人に教えることで、最大の顧客接点である職人自ら営業の役目を果たしてくれると実践し、広告・販促なしで5億円の売上を達成。社員向け勉強会からスタートした「職人起業塾」は、口コミで広がり他社社員、JBN阪神など多くのネットワークを巻き込む動きとなり国交省公認教育事業に認可されている。住宅に加え、 店舗設計も多く手掛ける。社員20人。
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