「今だけ、金だけ、自分だけ」という未来を叩き潰す選択
職人起業塾での研修を通して繰り返し訴えているのは日々の業務の中で未来をつくる選択をしているか否か?です。マーケティングとは売り込まずに自然に売り上げ利益が上がるシクミであり、未来を作る方法論です。目先の利益、時間の短縮、面倒が少ないと横着な思考で顧客やステークホルダーの信頼を叩き潰し、未来を食いつぶす選択をしていないかという質問です。
わかりやすい例え話で金の卵を産むガチョウの寓話を引き合いに出して、折角神様に金の卵を産むガチョウを授かったのに、今すぐにできるだけ多くの金の卵が欲しいとガチョウの腹を割いてガチョウを殺してしまい、貧乏人に戻った農夫のような愚の骨頂をしていないか?と訊くと、誰しもがそんなバカなことはしないと答えられます。しかし、ここ最近の報道を見てみると日本の大企業は、東芝の粉飾決算問題発覚による経営危機、シャープが家電エコポイントの時期にOEMの契約履行をせずに自社製品ばかり生産販売し、その後工場の稼働率が低迷して経営危機に陥り台湾企業の傘下に入った、三菱自動車の燃費数値の改ざんにより日産に吸収された等々、目先の利益をあげるために人として当たり前のことをせず、市場の信頼を失い、立ち直れない程のダメージを受けたというニュースは枚挙に暇がありません。まさにガチョウの腹を割いて未来を叩き潰す思考と選択そして行為です。
日本を代表する大企業の例を挙げても他人事と思うかもしれませんが、実はこのような選択は私たちの毎日の業務の中に常に潜んでいます。もう少し細かな実例を挙げると、職人が自分にしか分からないような工事の少しのミスに気付いてやり直すか、黙って見過ごすかであり、設計者が契約後、もしくは着工後に顧客にとってベターな提案を思いついた時、工事を止めて再提案を行うかであり、営業があからさま資金計画に無理がある顧客の案件を銀行が融資を了承してくれたからと着手するかであり、経営者が社員教育や就労環境の整備ではなく、利益確保、内部留保の蓄積に執着するかです。これらの選択はその場は何事もなくしのげても後で必ず露見します。建築業界に限らず、全ての人は毎日、金の卵(=目先の利益)と金の卵を産むガチョウ(=未来の売り上げにつながる信頼)のいずれかを選択し続けているのです。
必要なのは対処ではなく予防
建築事業は一つの案件に非常に多くの人と物が介在します。そして非常に厄介なことに、出来上がれば終わりではなくそこがスタートであり、引き渡した建物自体はもちろんですが、顧客が住まい出してからも延々と続く暮らしに対する安全や安心を担保しなければなりません。顧客のヒアリングから始まり設計、見積もり、施工、アフターサービスと長く複雑な過程を経て、それらの全てに問題がなければやっとその顧客は真の顧客(=生涯顧客)となり、競合のないリピートの注文や新規顧客の紹介をしてくれて未来の売り上げをつくってくれるようになります。しかし、心無い人(金の卵を選択する人)が一人混じっているだけで全ての努力が一瞬にして水泡に帰すことになってしまいます。そのリスクを消し去る全体のマネジメントの難しさを考えると気が遠くなりそうですが、私たち工務店は勇気を出してそこに取り組まなければならないと思います。しかし、その難しさ、面倒さゆえに顧客ストックを積み重ね、活用する自立循環型のビジネスモデルではなく、常に新規顧客を追い求める訪問販売やテレアポ営業など一般消費者への強制介入を繰り返す業者が今も多く見られます。そして、程度の違いはありますが、それらをもう少しマイルドにしたチラシや雑誌へのマス広告を使った反響営業が今の工務店業界、リフォーム業界のスタンダードとなっています。しかし、これまで繰り返されてきた消費税増税後の冷え込みを教訓とするならば、反響営業は外部環境に大きな影響を受けるのは誰しも認めるところであり、チラシなどの広告による集客は競合他社との血みどろの戦いを強いられ、競争に勝てたとしてもマーケットに引っ張られた厳しい低利益率での受注から抜け出すことは非常に困難です。マス媒体でのオープンな広告宣伝は強みを訴えてもすぐに真似され、せっかく見出した独自性はあっという間に埋没してしまい、反響は時間、回数と共に確実に落ちていくことを私たちも散々経験してきました。
広告宣伝が全て悪いとはもちろん思いませんし、地域での自社の存在、認知を広める活動は非常に重要です。弊社でも地域では最も大きな路面看板を立てて地域住民へ存在を強くアピールしています。しかし、マス媒体を利用した宣伝広告の反響に頼って売り上げをつくり続けるというのは、あくまでも短期的な視点での対処であり、企業の大きな目的でもある存続し続けることへの根本的な解決にはなり得ないと考えています。現行法の下では、再来年にまた消費税が増税される予定となっておりますが、増税後の消費マインドが冷え込んだ時、販促活動を活発にしたからといって売り上げの維持ができると確信を持っておられる方は少ないのではないでしょうか。必要なのは新規集客という『対処』だけに頼るのではなく企業としての地力をつける『予防』への意識だと思うのです。甚だ面倒ではありますが、それがモノづくりの本質である現場マネジメントを見直し、生涯顧客の創造を地道に積み重ねる意味であり、意義です。
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