期待値とギャップが信頼を生む
私がこの10年間の取り組みで見出した、効果を劇的に上げる方法は、顧客の期待値とのギャップに着目する事でした。顧客接点において、経営者と同じ感覚=経営者感覚を学び、習得した営業マンが流暢に顧客の前で話してもなかなかその価値には気付いてもらえません。それは他社の営業マンも同じ様な研修を受け、営業スキルを身につけるトレーニングを積んでおり、顧客にすると大した違いを見出せないからです。しかし、現場に従事する職人や現場監督が経営者感覚を持ち、本当に顧客の事を考えた提案や進言をしたならば、顧客はよもや彼らが自ら積極的にコミュニケーションをとり、自分の想いを聴いて現場に反映してくれるなんて期待を持ち合わせておらず、そのギャップによる衝撃は小さくありません。現場を基軸にして考えると、絶対エースの経営者の強みを移植して会社全体の強みにすることは一気に具現性が増すのです。
その根底には、モノづくりが出来る技術者、専門職に対する信頼性があります。顧客は現場の事、モノづくりの実務を理解している人に対して、少なからず尊敬の念を持ったり、安心感を持ったりします。それだけで大きなアドバンテージを持っている実務者は、少しのコミュニケーションを心がけるだけで大きな信頼を手にすることが出来るのです。
USP・コアコンピタンスはセグメントとセット
とはいえ、売り上げをつくるというのはゼロからイチを生み出す作業であり、そんなに簡単に出来るものではありません。今後、新築の着工棟数は右肩下がり、リフォーム業界は大手ハウスメーカー各社の新築事業からのシフトだけではなく家電量販店やネット通販Amazonなどの新規参入の事業者も増えて厳しい消耗戦が繰り広げられると予想されます。他社と比べられるのがアタリマエの今の時代に選ばれて受注を得るにはやはり『強み』を持ち、発揮せねばなりません。しかし「御社にしかない強みとは?」と質問されて胸を張って答えられる工務店はごく稀であり、デザイン力や施工品質、提案力、価格、商品力、といったこれまで建築業界で磨きをかけるべきと言われてきたことは全て、コアコンピタンスと呼ばれる「競合他社を圧倒的に上まわるレベルの能力」「競合他社に真似できない核となる能力」や、「自社独自のユニークなウリ」と訳されるUSPにはなり得ません。残念ながらすぐに陳腐化し真似されてしまうのが現実です。
では、何が強みとなり受注を叶える根源となるのかを考え直したとき、結局行きつくのはやはり『人』です。強みとはセグメント(市場限定)とセットで考えるべきであり、大した強みでないとしても、市場の限定を狭めて括りを町内だけに留めると、娘にとって父親が唯一無二の存在であるが如く、常にナンバーワンであり、その枠を広げる事で自社が強みを発揮出来るマーケットを持つ事が出来ます。そしてそのセグメントを物理的な範囲ではなく、人と人とのつながり、信頼関係を構築したコミュニティーと考えれば強みを生かしたまま無限に広げて行く事が可能となります。
マーケティングとは結局、自社だけのマーケット=コミュニティーを作ることに他なりません。無論、デザイン力や施工品質、提案力、価格、商品力等々の顧客に与える価値も磨き続ける事は必要ですが、「人としてどうあるべきか」というマーケティングの入り口の命題に真摯に向き合うことで、それらの価値と掛け合わせ、USP、コアコンピタンスと言われる自社のみが持つ強みを作り上げることが出来るのです。
今回も具体的というよりは概念に近い内容になってしまいましたが、それぞれの企業が持つ『強み』をもう一度見直すと、やはり『企業は人なり』の原則論に着地すると思います。顧客の対象を絞り、そして広げる意識を持つことで少し時間はかかるかも知れませんが、必ず外部環境に左右されない独自のマーケットを構築出来るようになると考えております。
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