事業の目的の明確化と共有
では、工務店とって必要なビジネスモデル構築の、最も重要である基礎となる部分は、どのように構築すればよいでしょうか。
私はその答えは「なんのために?」という問いに答える事だと考えています。もう既に始まっている、不正、不誠実、偽物が排除される『本物の時代』へと本格的に移行したとき、生涯顧客を創るには顧客に対して絶対の責任を負う覚悟が求められます。それは、「なんのためにこの事業を行っていますか?」という問いに経営者が答える事ではっきりとします。非常に言いにくいですが正直に申し上げると、実際に口にするかしないかは別として「今だけ、金だけ、自分だけ」という価値観で仕事をしている経営者を私はこの業界で大勢見てきました。
そこまで極端ではないにしても、建築業界にどっかりと横たわる悪しき慣習は未だ数多くあり、表面だけ取り繕った対処で誤魔化す、「本当はよくないんだけどね」と根本的な問題をやり過ごすなんてコトは元請け、下請けを問わず、建築、不動産を扱う業界では未だに珍しくないのではないでしょうか。特に現場での労働環境にまつわる諸問題は現在の職人不足を引き起こした大きな原因であり、厳しい言い方をすると、それらは結局、根本的には「今だけ~」と同じパラダイムであり、単に程度の差があるだけです。
「なんのために?」という問いは事業の目的をあぶり出し、経営者の理念、思想、哲学をはっきりとさせてくれます。そしてその答えが顧客にとって価値あるもので、市場に必要とされていることが大前提となり、共に働く従業員が理解、共感して実務の際の判断基準、方向を指し示す羅針盤として機能したとき、初めて全体的な理論構築の基礎が出来上がると考えます。職人集団だった弊社では、顧客のクレームがある度に、「オレらに必要なんは顧客からの信頼や、銭金の問題やない、全部やり直してこい!」と言って現場の採算をまるっきり度外視して大幅な手直し工事を行う事で、社員職人に小手先で誤魔化さない工事を行わなければならないことを肌感覚で叩き込んできました。その感覚の共有こそが理論構築の下支えとなっています。
経営理念の実践者は誰?
『事業の目的』=『経営理念の実現』とよく言われますし、私も目的を質問されるとそのように答えます。なので社内外に経営理念を明示して、事業を通して実現する理想を知らしめ、理解者を募ります。原則論からすると、顧客も従業員もその経営理念に共感し、価値を感じて共に行動する事を選択する、しているはずとなります。
経営理念実現が事業の目的である以上、営業、設計、施工、アフターメンテナンス等、実務の全てにおいてその考え方や価値観が反映されているべきで、経営理念自体は経営者が考え、掲げるかも知れませんが、実際は顧客接点となる従業員、協力業者、各職方が経営理念の実践者となります。この価値観の共有、方向性の認識が明確になっていてはじめて顧客を生涯顧客に変化させる入り口に立てると考えます。
しかし、残念なことに経営理念は立派な言葉で書に認めて、額に飾ってしまいがち。元は経営者の想いを端的に言い表して広く皆に理解してもらおうと考えられたはずですが、末端の社員の煩雑な日常とは関係のない高尚な飾りになっている事が少なくありません。ましてや、社員以外の職人さんにとっては関係ない世界のお題目になっており、聞いた事もないし、覚える気も、その必要もないと思われている事も少なくありません。
最も顧客と接点を持つ実務者が『なんのために』現場での作業を行っているのか分からずに、「今だけ、金だけ、自分だけ」のパラダイムで働いていたのでは顧客は生涯顧客になどなってくれる訳がないのです。
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