インバウンド・マーケティングへの取り組み
もうひとつ考えたのは私達が取り組むべきマーケティング戦略はこれからの時代に合ったものでなければならないという事です。その理論はブライアン・ハリガンとダーメッシュ・シャア共著の『インバウンド マーケティング』に詳しいのですが、重要な事はこれまでとは圧倒的に違う、劇的な変化を見せ始めた情報化革命の波に呑み込まれない様にすることだと考えました。
インバウンドとは、外国からの観光客を指してよく使われますが、ここでは事業所の持つ内面の価値を磨き、情報として見つけてもらう事を意味しています。
対するアウトバウンドとは、マス媒体を使った宣伝広告やテレアポ、訪問営業等で、無理矢理もしくは無差別に人の目に触れようとしますが、実はそれらの手法は消費者への強制介入に他なりません。本物の時代の到来を考えれば徐々に陳腐化するのは想像に難く無いと思います。
自社の持つ価値『情報』を消費者に見つけられる、もしくは口コミで拡散されることにより信頼関係の構築が容易な集客を目指すのがインバウンド・マーケティングであり、時代の波に逆らう事無く、本質に立ち返る意味も含まれています。
国立競技場のロゴ盗作問題しかり、日本を代表する大企業の相次ぐ不祥事しかり、近年では企業の不正、不誠実な姿勢があっという間に全て白日の下に晒されます。インターネットによる情報化革命はスマートフォンの普及により加速し、その情報の伝達、そして発信の容易さが爆発的に変わりました。もはやこれを正ととるか負ととるかと議論する余地はなく、自分達の拡散されて困る様な行動は排除し、見つけてもらい価値を感じてもらう取り組みを進めるしか道はありません。そして、積極的に情報発信をする事で、価値観の近い顧客と繋がるツールとして活用するしかないと思うのです。まさに、小手先の誤魔化しは通用せず、偽物は排除される本物の時代の到来です。
経営者と従業員の意識の違い
マーケティングの定義が定まり、方向性が決まれば、後は実務に落とし込む方法論を考えて行動に移すだけ。非常にシンプルです。要するに、ご縁を頂いたお客様に、「一生あんたの会社にお願いするわ」と言って頂く様にすれば良いだけです。
18年前、私が起業した際は、自分で大工職人として現場で作業を行いながら、お客様の窓口を務め、見積りからプラン、事務作業まで全てを行ない、モチロン、アフターフォローもメンテナンスも自分自身で行なっておりました。その頃のお客様は、20年近くなった今も何かと私のケータイ電話に直接電話をかけて下さいますし、一生のお付き合いをさせて頂いていると感じています。
しかし、社員が増えていき、徐々に現場を社員に任せ、設計や見積り、顧客対応までの実務の全般を全て専門のスタッフに移譲しはじめた頃から、果たして創業時と変わらない顧客との関係性を保てているか?と、非常に不安に思えて来ました。それは社員のスキル云々の話だけではなく、経営者の私が責任を持って顧客に向き合うのと、そうではない担当者が対応するのでは絶対に同じ判断になる訳がないと思ったのです。
その部分の不安要素を排除出来なければ、生涯顧客の創造もマーケティングの構築もままならないと気付いたのですが、この問題を解決するには社員の意識を根本から変えなければならず、非常に根が深く、難しい問題だという事も同時に認識しました。
理論と実践の壁
理論では簡単に思えても実際に実践して成果を上げるのはそんなに容易ではありません。事業に理論通りの行動を落とし込むこと、そして計画通りに進めるための問題解決の繰り返しこそがマーケティングの構築に他ならないと気付き、根本的な問題解決に取り組み始めたのが10年前です。その入口は、とにかく顧客からの絶対の信頼を得ること。まず始めに取り組むべきは現場品質と現場でのコミュニケーションの向上だと考えました。それが外注扱いだった大工の正規雇用であり、社員大工に対する教育です。先ずはモノづくり企業として信頼されるに値する根本を正すべきなのです。
前回、職人不足の元凶にもなっている将来の売上げ、利益が見えにくい工務店のビジネスモデルの問題を解決するためには、『状態目標の設定、管理の経営』だと書きました。生涯顧客の創造には、結果と評価が求められます。その結果とは、良いデザインでもなく、コストを抑えた見積りでもなく、感動的なお引き渡し式でのお客様からの感謝の言葉ではありません。新居に住み始めた後の生活の中で、全く不具合を感じない、もし問題があっても真摯に対処をしてくれるといった、5年、10年と続く生活者としての評価がその全てです。引き渡し時に隠していた瑕疵が後で発覚したり、アフターメンテナンスを依頼してもおざなりな対応だったりすると、それまで多くの人が関わり、積み重ねて来た信頼は一瞬にして水泡に帰してしまいます。根本的な解決は実際に手を下す大工の意識改革を避けて通れず、職人が安定して働ける環境を整えた上で意識改革の教育を行わなければと考えました。
本物の時代の到来へ向けて
本物の時代の到来への対応として、弊社ではブログによる情報発信を以前から活発に行なってきました。私と設計スタッフはこの夏を越すと毎日のブログ更新が10年目に突入します。
『読むに値するものを書くか、書くに値する事を行ないなさい』と言ったのは ベンジャミン・フランクリンですが、10年近く毎日ブログによる情報発信を継続してみると、自分達の価値について考え、行動する量が確実に増えて、行動自体を変える意識につながり自社の価値を高める事が出来たのではないかと思っています。
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