結果の目標設定から状態の目標設定へ
私が提案するこの問題に対する解決策は、『状態目標の設定、管理の経営』です。建築業界に限らず、欧米型資本主義経済にどっぷりと浸かり切ったこの国では、アメリカ式短期決算での進捗管理、結果がすべてと、売り上げ利益の目標を立てて、その達成のための行動を管理し、マニュアルを作り、従業員をルールで縛り付けてきました。そのシクミの中に見込み客を放り込めばある程度の受注が取れるという仮説に立ってビジネスモデルを構築してきました。
これが職人不足を加速してきたシステムだとすれば、その解消のためにはこれからは全く逆のパラダイムでのビジネスモデルを作り上げなければなりません。
マニュアル、ルールで従業員を縛るのではなく、長期的な視点で、主体的に結果を上げるように従業員自らが行動を起こす、要は自然に結果を生み出す『状態』をつくることに焦点を合わせるべきです。
すべての従業員に高いモチベーションを保ってもらい、利益を上げる意識を持って全員で業務に当たるというのは、経営者感覚の落とし込みであり、それは圧倒的な顧客接点の強化に他なりません。
それは自社のファンを増やし、将来の売り上げ利益の種を蒔くことになり、(従業員の)状態の管理、向上が新たな(顧客の)状態の管理、向上へと連鎖していくのです。
この状態を整えて、成果を生み出す土壌をつくるパラダイムこそが、職人を疲弊させて、全体の90%以上が赤字企業といわれるこれまでの建築業界を根本から建て直す入り口であり、この10年間にわたり我々が取り組んできた、販促費をかけずに売上高を維持し続けるインバウンド・マーケティングの根底にある考え方です。
この号を皮切りに全12回にわたり職人起業塾で講義を行っている内容を、工務店経営者向けに特化したインバウンド・マーケティングの理論、具体的な手法を詳しく説明する連載をさせていただきます。次号はマーケティングの定義の再考について執筆の予定です。分かっているようで分かりづらいマーケティングについて考え直す機会を提供できればと思っています。
私も工務店経営者であり、書籍を上梓しているとはいえ、決して文章を書き慣れている訳ではありません。拙い文章で恐縮ですが、1年間お付き合いいただければ幸いです。
高橋 剛志 たかはし・たけし
すみれ建築工房(神戸市)代表。大工。自身の苦しい経験から、職人が安心して将来設計を考えられる環境こそ工務店を強くすると実感。マーケティング理論を職人に教えることで、最大の顧客接点である職人自ら営業の役目を果たしてくれると実践し、広告・販促なしで5億円の売上を達成。社員向け勉強会からスタートした「職人起業塾」は、口コミで広がり他社社員、JBN阪神など多くのネットワークを巻き込む動きとなり国交省公認教育事業に認可されている。住宅に加え、 店舗設計も多く手掛ける。社員20人。
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