第1回 工務店にはリフレーミングが必要だ
経営を圧迫する急激な職人不足と販促費の増加。仕事をつくるための販促費の捻出のために、職人の賃金を抑え、結果として、仕事が取れても仕事をする職人がいなくなるという悪循環にはまる。すみれ建築工房(兵庫県神戸市)の高橋剛志社長は、販促費にかかる経費を職人のために回すことで、意識の高い職人を強みとしたインバウンド・マーケティングを実践し、業界の抱える悪循環の克服に取り組んでいる。その極意を全12回の連載で伝えていただく。初回は高橋社長の自己紹介と今の経営手法に至った経緯を紹介していただく。
(編集部)
自己紹介
はじめまして、神戸と台湾で工務店、また関西一円で『職人起業塾』なるマーケティングを切り口とした建築実務者(職人、現場監理者、設計、営業等、顧客接点となる従業員)向けに研修事業を営んでいる高橋剛志と申します。
私はいわゆる現場叩き上げの創業経営者であり、元大工です。阪神淡路大震災の復旧があらかた終わり、復興景気がしぼんだ神戸で18年前に全くの徒手空拳、大工道具を詰め込んだワンボックスカーと、若い衆一人、そして自分の身一つで起業しました。
営業から見積もり、工事までを自ら行い、よく動く若い大工として不動産会社や住宅メーカー、デザイン会社などから重宝がられて、2年後に法人設立、その6年後に本社ビルを建てて、チラシ、イベントでの反響営業を展開して下請け工務店から脱出。元請け転換を図った1年後に大工の正規雇用、社員化に取り組み、自社社員大工による施工、顧客接点の強化を強みにマーケティングを組み立てて、今から5年前に一切の宣伝広告をやめても毎年5億円程度の売り上げを自然発生的に上げるシクミを構築しました。
かつては毎月のように新聞にチラシを折り込み、イベント集客を行い、R社の住宅雑誌に新築の施工写真を掲載するなど、一般的な販促活動も熱心に行っておりました。チラシやイベントのコンテンツが売り上げを左右する重要な鍵であると考えてそれらの作り込みが私の仕事の中心でした。
しかし、売り上げ自体は順調に伸びていきましたが、毎月使い続ける販促費が経営に重くのしかかり、いくら売り上げが増えても、毎年の決算ではいつも利益が思うように残らず、経営者としての自分の能力の低さに砂を噛むような悔しい、情けない想いを抱き続けていました。
もう1つ収益を圧迫していたのは、創業時は日給月給だった大工の正規雇用への転換でした。就業規則や賃金規程を刷新し社会保険や厚生年金、工事用車両や現場経費を事業所で負担することで、外注扱いの日給月給の時よりも年間あたり1000万円近く経費が余分にかかるようになっていたのです。
銀行の担当者には、「社長、イマドキの工務店で職人を抱え込んでいる会社なんかありませんよ、経費もかかるし、それって単なる人員の在庫でしょ」と、私の方針をバカモノ扱いされたこともありました。
大工時代、常に将来の不安を抱えていた
大工正規雇用の理由
私が大工の正規雇用に踏み切ったのはいくつか理由があります。それはお金よりも大事なことであり、銀行の担当者には理由を説明しても理解してはもらえませんでしたが、事業を続けていくにあたり曲げる訳にはいかないことでした。
その理由とは、
- 自分自身が大工として働いていた経験から、将来が全く見えない生活に子供を作るのさえためらい、こんな労働環境では、若い人に奨められないと思っていた。
- 毎日の安定がなく、将来が見えない毎日はどうしても今が良ければいい、という視点になりがちで、住宅という何十年も残るモノを作るのに必要な長期の視点を持てなかった。
- 自分のことを信じて、ついて来てくれる若い大工達には同じような想いをさせたくなかったのと、大工として働く以上、自分の家を自分で建てられるように住宅ローンが通るようにしたかった。
- 外注の大工は早く現場を終わらせることで利益が大きくなる。手間をかける程、儲からないというのは、いくら信頼関係があったとしても構造的にいい家をつくる方向と利益の相反がある。
- 工務店の本分はモノづくりであり、職人おらずして成り立たないのは絶対の真理。今の職人が働く待遇ではこれから先の職人不足は目に見えており、事業の継続に職人の育成は不可欠。
自らの経験や想いを踏まえて、創業時に掲げた弊社のミッションは『職人の社会的地位の向上を果たす』であり、現在も12名の職人としての工務スタッフを抱える事業所として自社職人による施工、メンテナンスを強みとしてリピート受注と紹介が売り上げのほとんどを占める営業を続けています。
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