「地域企業が地域に密着することは当たり前、地域に愛され、地域の価値を高める存在になることが地域に生きる企業のあり方」と語るのは、経営不振にあえいでいたバスケットボールチーム「千葉ジェッツ(ふなばし)」を、“地域愛着“を掲げ、5年でバスケットボールのプロリーグ「Bリーグ」でも屈指の人気チームにまで押し上げた同社代表取締役の島田慎二氏。地元の情熱から始まったチームが大企業のバックアップを受ける“ビッグクラブ“を押しのけて、年間観客動員数リーグナンバーワン、Bリーグ初年度(2016-17年シーズン)天皇杯優勝を成し遂げた。
12月20日に東京で開催する新建新聞社/新建ハウジング主催の「住宅産業大予測フォーラム2018」では、地域をベースにしたプロスポーツチームで、夢・理想をビジネスとして形にした島田さんに、これからの地域型企業の経営のあり方を共有していただく。講演に先立ち、島田さんに経営者として大事にしている考えを聞いた。
千葉ジェッツふなばし 代表取締役
島田 慎二 氏
1970年11月5日生まれ。日本大学法学部卒。92年にマップインターナショナル(現・エイチ・アイ・エス)入社。95年に独立、起業し、以降、いくつかの会社経営に携わる。2011年から千葉ジェッツ(ふなばし)の経営にアドバイザーとして関わりはじめ、12年に運営会社の代表に就任。15年、ジャパン・プロフェッショナル・バスケット・ボールリーグ理事就任。17年5月、Bリーグ副チェアマンに就任し、リーグ全体の活性化にも奮闘している
地域密着は当たり前
――千葉ジェッツふなばしは「千葉ジェッツを取り巻く全ての人たちと共にハッピーになる」を活動理念として掲げています。その文脈で、島田さんは「地域愛着」という言葉を使われています。
地域でビジネスする以上、地域に貢献するのは当たり前。その中で、ことさら「地域密着」を強調することに違和感を持っていた。ローカルで生きている企業が地域密着と言うのは、村長が「この村大事ですよ」って言っているようなもの。その先になにをするかが大事。最終的な地域貢献というのは、ジェッツの場合なら、「ジェッツがあるからここに住みたい」という存在になれるか、どうかだと思っている。
私どもの場合は、「船橋市」をホームタウンと明確に示している。「船橋市」が一番のマーケット。船橋で商いをされている企業がスポンサーの半分を占める。我々がここで観客を集めることで経済効果に貢献することで行政も地域の企業も非常に重宝してくれている。
経営者としてはジェッツが必要だと思われていれば経営が成り立つ。ということは、地域で愛されることが最高の事業継続計画(BCP)になる。存在価値を高めていくための究極の姿が“地域愛着”であり、そこでの努力が経営というふうに考えている。
ビジネスという現実があっての夢
――経営において、理想とビジネスのバランスは大きな課題だ。
バスケットボールチームは、過去には、2000万円ぐらいでチーム起ち上げられた時期があった。だから、「バスケットが好きでバスケットチームつくっちゃいました!」みたいなケースが少なくない。でも経営力が脆弱で、立ち行かず、地域での存在感を生み出せてないところもたくさんある。経営が伴ってないから結局は夢が嘘っぽくなる。
私は夢も語らなくはないですけど、まず現実的に業績を上げてみんなの給料増やして、地域社会に存在感を増していくことを、ドライにやってきた。「ここにたどり着こう」という目標があって、そのために戦略を持ったアプローチをすべきだ。戦略もないまま、地域の会合に顔を出して、「もしかしたらそこで名刺交換してなんか顧客になるかも」みたいな淡い期待のまま時間を浪費するぐらいだったら、品質を高め、それをどうPRしていくかということに、フォーカスしてしっかり一つひとつ積み上げていって、地域で結果を出すことによって、地域から引っ張られて存在感を増していくことができます。
夢を語ったり、ビジョンを示すのはトップの責務だ。問題は夢や理想を経営者が語ることには、責任が発生するということ。そこにどうやってアジャストしていくのかが経営だ。
そもそも経営というものは雲をつかむような、ふわふわしたもの…いかに成功する確率を上げるか、その努力の連続が経営だと思う。誰も答えは分かっていない。やらなくてはいけないことを整理整頓して、ひとつずつやっていく。うまくいったこと、いかなかったことを検証して、精度を上げていく。
ジェッツの場合、最初の頃は、体力もなかった。無い無い尽くしの中で最初にやったのはまず資金を得ること。銀行で借りられる余力はなかったので、スポンサーを獲得することを考えた。でも、本来スポーツの中のスポンサーというのは、地域に存在感があって人気があって観客がいっぱいいるから、広告を出しても価値があるということで成り立つもの。
それがない中で、倒産しそうなチームが1兆円企業のトヨタのチームを倒すというメッセージを発信して、ベンチャー企業に対して、「今価値もないし客も入ってないし…でも、近いうち世界のトヨタを倒す…一緒に倒していきましょう!」と夢を話して、お金を集めた。その集めたお金を持って、日本代表など人が呼べる選手を獲得した。それで観客が入りだしたなってときに、地域での存在感と観客動員を一気に上げて、スポンサーにもフィードバックをしていった。
経営者として結果を出せないのに人はついてこない。「給料上げられないけど頑張ってね!」でも最初はいい。けど、ずっとそれでは誰もついてこない。それではリーダーシップを発揮できないってこと。リーダーシップってなに?って言ったらやっぱり実績だ。だから、実績を出すことから逃げた瞬間に経営は終わる。
業界の発展が自社の発展になる
――島田さんは、「島田塾」という勉強会を通じて、Bリーグの他チームに経営の手法などを伝えている。
業界のためではあるけど、それも含めてジェッツのためだ。今、ジェッツの売り上げは11億円とか12億円。バスケ界では大きいほうだが、企業として、褒められるほど大きいわけではない。だけど、バスケットって現状、5000人とかのキャパが結構アッパー。その上限を突破するためには業界全体が盛り上がってくることが必要。だから、業界発展は、結果的に自分のとこの利益として返ってくる。狭く考えていては大きな成長は望めない。
もうひとつは、地域の野武士精神に共感を持っているからだ。Bリーグのチームは、一部を除けば、大半はうちみたいな、バスケが好き過ぎて借金しながら地元の有志がタッグを組んで始めたようなところがほとんど。だからすごい熱意がある。
ただ、経営者としては、よちよち歩きでリスクを負って生き抜いてる。私は25歳の時から会社経営に携わってきた経験がある。その経験を地域で頑張っている人たちと共有できたらもっと地域を面白くできると思っている。大企業バックのチームではなく、草の根のバスケットボールチームを軸に地域が盛り上がったら、もっと楽しくなると思っている。
――講演会に向けて住宅業界へのメッセージを。
ジェッツもスポンサーとして多くの工務店、住宅関連企業から応援していただいている。業界は違うが、地域で選ばれるという意味では共通点は少なくない。地域密着活動を通して“地域愛着”の境地にたどり着きたいと考え愚直に活動してきたことで地域から評価されてきた。地域から愛され必要とされる存在になるための特効薬はなくただただ地道な活動で力をつけること。力をつけずして存在感を醸し出すことは難しい。ジェッツが行ってきた、地域とのつながりやマーケティングの考え方などをお伝えしたい。
住宅産業大予測フォーラム2018
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