企業の情報発信の方法として、改めて広報が注目を集めている。広告という手法が効きにくくなっている中で、記事としてメディアに取り上げられる広報術のスペシャリストであるPRコンサルタント・井上岳久氏に、企業広報のポイントを聞いた。
PRコンサルタント
井上 岳久 氏
井上戦略PRコンサルティング事務所・代表。『広報会議』誌上で企業のプレスリリースに関する連載を執筆。100社以上の企業広報を取材している。PRに関する著書は10冊以上。
適切な情報発信が企業の存在価値をつくる
メディア使った広報戦略で社会での存在感出す
企業広報の役割は、自分たちの会社が何をやっているかを発信していくこと。会社が社会的な存在であるからには、自分たちが何者であるかを伝えることはある意味、義務。まず会社の存在意義を知ってもらうことが商売の始まりだ。名前すらわからない会社が、市場に受け入れられるのは非常に難しいからだ。
「この会社があるから我々の生活がより豊かになっていくんだ」って思ってもらうことが重要。世の中の役に立っていることをきちんと伝えていかなければ生き残ることは難しい。
今までは広告を使ったりして、何となくでも宣伝できた。これからは広告もだんだん効きが弱くなっていく。その中で、広報の重要度はこれまで以上に増していく。
メディアの力を利用する
広報戦略の目的はメディアに取り上げられること。情報化社会といわれているが、メディアの数は増えている訳じゃない。ネット上の情報は増えているかもしれないが、昨年末のキュレーションサイトの問題ではないけれど、ネットの情報は信用度が高いとは言えない。
一方、新聞やテレビなどの伝統的なメディアに取り上げられれば、それがネット上でも波及し、勝手に広がっていく。現在、企業もSNSなどを使って情報発信をしているが、ベースとなる情報発信があって初めて、社会とのコミュニケーションが成立する。
ただし、広報に関していえば、きちんと考えている会社がすごく少ないのが実情だ。プレスリリースすら書けない企業がほとんど。広報活動をやっている会社も3割くらいで、その中でまともな情報発信ができるのは2割程度というのが私の実感だ。だからこそきちんと取り組めば、成果は必ず出る。
地方は広報しやすい
地方の企業こそ、広報に力を入れるべきだ。地域型の方が成功率は高い。なぜならニュース性を持たせやすいからだ。全国展開している会社だと、全国区の在京メディアに載せないといけない。東京は、一部上場企業がひしめき合っていて、情報の量が圧倒的に多い。そこを勝ち抜かないといけない。それに比べると地域は争いが少ない。
地域一番とか、そういう切り口でも取り上げられる。全国紙でも地方版では、地域のネタであれば取り上げやすい。
組織的な戦略が必要
きちんと広報を行うためには、専門のスタッフが必要だ。
広報スタッフに必要なのは、まずバイタリティ。企画を立てて、社内の関係者から情報を集めて、ニュースをどんどん出して、メディアの人と会おう、取材をしてもらおうという熱意が必要だ。そういう動きが活発な人はだいたい成功する。
次がコミュニケーション能力だ。人と話すのが苦手だとか、会社から出るのが面倒くさいっていう人は、向いてないだろう。
あと欲しいのは文章力。何か届けるのに口頭だけでは足りない。必ず文章にしなくちゃいけない。この3つがあれば広報はできる。
そして大事なのは全社的な戦略。例えば普通の家を建てたって、メディアは取り上げてくれない。メディアが取り上げたくなるような要素を入れないといけない。そのことを組織として理解してないと、「なんでそんな機能つけなくちゃいけないの?」となる。普通の家を普通にPRしてもなかなか記事では扱われない。そこを組織体としてきちんと対応する。社長や役員クラスの人がちゃんと仕切っているところは、うまく機能させることができる。この情報時代にあって、広報は最も重要な役割のひとつだ。
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