日本建築士会連合会(三井所清典会長)の会員数は全国で約12万2000人。設計業務に係わらずさまざまな分野で活躍している会員が多いが、同連合会が社会貢献につながる「専門分野別建築士」の養成や支援を担っていることは余り知られていない。6月20日に行われた連合会総会では前年度の養成状況と活躍ぶりが報告された。
2000件超える被災地の文化財建造物調査に貢献
建築士会には、ヘリテージマネージャーという「地域に眠る歴史的な文化遺産を発掘し、保存・活用を通じて地域づくりに活かす能力を持った人材」を養成する事業があり、5年前から連合会が事務局になり全国ヘリテージマネージャーネットワーク協議会を運営。28年度はその育成講習会が全国35の建築士会で実施された。現在までに誕生したヘリテージマネージャーは3400人。
活躍が認められたのは熊本地震。被災した熊本県に代わって九州各県のヘリテージマネージャーがいち早く現地に入り337件の文化財建造物の被害状況を調査。この事業は文化庁に引き継がれ、他の建築団体と共同体制で2018件、延べ527人のヘリテージマネージャーが派遣され成果を残した。
発災時の復旧・復興活動に直ちに役立つ専門家集団
熊本地震で建築士会連合会は、木造による応急仮設住宅建設や復興住宅のモデル建設など、災害時の地域住人の暮しを支える役割を果たしたが、一方で被災者の罹災証明書発行につながる応急危険度判定でも大きな役割を果たしてきた。昨年、大地震で被害を受けた建物について携わった建築士会会員は4月の熊本地震で580人、10月の鳥取地震でも67人におよぶ。士会連合会では参加経費などの支援を行ってきた。
大分で10月に行われた全国大会では、建築士としての果たす役割を「住まいや住環境づくりを通じて地域住民の暮しを支える大きな責任」とし、「発災時に復旧・復興活動に直ちに取り掛かれることができる事前の備え」として、日頃から地域行政と「普段付き合い」の重要性が強調された。
連合会の環境部会がリードした省エネ基準の適合義務化
2020年までに住宅の省エネルギー基準への適合を義務化した改正省エネ法では、国が昨年3月、ガイドラインとして「所管する行政庁が地域の気候および風土に応じた住宅で、外皮基準に適合させることが困難であると認める際の判断基準」を公表したが、この内容のかなりの部分で連合会環境部会の提案が採用された。今後は、建築性能だけではない建築の地域特性を活かした評価方法について、地元の建築士会が積極的に地元自治体と協力し、各地域に相応しい省エネルギーガイドラインの作成をすることになる。
このほか、「公共建築物の中大規模木造の実現・普及のための講習会開催」や「既存住宅インスペクターの養成のための技術講習」など、さまざまな分野の専門家の養成が行われており、29年度も社会貢献分野の事業拡大が見込まれる。
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