声なき声を搾り出し、沈黙に寄り添う力。
私たちにはすでにその能力が備わっている
私たちにはすでにその能力が備わっている
4月1日時点で両親を亡くした震災孤児は少なくとも73人を数え、片親もしくは兄弟姉妹を亡くした子どもの数は把握すらできていない。
「この先、どうしてよいのかわからない」と言葉を発する大人たち、「がんばれ」と薄っぺらな言葉を繰り返すメディアを尻目に、子どもたちは何をどうしてがんばったらよいのかもわからず、感情を押し殺したままでいる。
被災地には千人規模のスクールカウンセラーが配置されたという。はたして、その効果は未知数のままである。一人のカウンセリングにかかる時間はときに数年に及ぶ。
継続した関わりがそこに求められるのはいうまでもないが、一人のカウンセラーが1カ所でカウンセリングを継続できる体制は整っていない。子どもたちには、身近にいる大人たちの力が必要なのだ。
いま、私たちにできることは関心を持ち続けること、声なき声にも寄り添い続けることである。幸い、大人の多くは仕事を持っている。工務店さん、豆腐屋さん、洋服屋さん、運送屋さん、どんな職業も無から有を形作ることを前提としてきたのだ。
豆腐屋さんは、よりおいしく安い豆腐を、洋服屋さんは着心地がよく、もっと素敵なデザインを、運送屋さんは正確に、より速く…。
いかなる仕事も、世界に偏在する小さな暮らしの営み、声にもならない願いを聞き出す行為を積み重ねてきた。
いい換えれば、私たちにはすでに、大人や子どもたちの内奥にしまい込まれた言葉にさえ、耳を傾ける能力を持っていることになる。
誰かのことを思って仕事をするとき、私たちはその対象を通じ、知らず知らずのうちに全体に参加しているのである。
被災地に不足する物資を届けるのも大切な行為だろう。同時に、非常時のいまこそ自他の沈黙に静かに耳を傾け、子どもたちが綴る詩のように、繕いのない言葉を勇気をもって搾り出す、あるいは痛みをもった人のそれをすくい取る行為を大切にしたいと思う。
それは紛れもなく誰かに寄り添う行為であり、そのささやかな波は必ず彼の地に伝播していくはずである。
ままへ。
いきているといいね。
おげんきですか。
岩手県宮古市で、両親と幼い妹を津波で失った4歳の女の子が、覚えたてのひらがなで画用紙に綴った詩である。人の感情に少しも届かない正論もあれば、わずか3行のひらがなが人を揺さぶることもある。
言葉を仕事としてきたはずの自分が、いまだ子どもに教わってばかりいる。
加藤大志朗(かとう・だいしろう)
1956年北海道生まれ。ジャーナリスト・編集者。約20カ国を訪れ国際福祉・住宅問題などの分野で執筆。住宅分野では85年から温熱環境の整備と居住福祉の実現を訴え、取材した住宅は800軒を超える。主な著書に「現代の国際福祉アジアへの接近」(共著・中央法規)、「建ててよかった快適・健康住宅」(日本評論社)など。現在、岩手県盛岡市の出版社リヴァープレス社代表取締役、同社発行の住宅・生活誌「家と人。」編集長。岩手県「いわて新エネ・省エネ住宅大賞」選考委員(02~05)、岩手県住宅政策懇話会委員(03~)。
TEL:019‑667‑2275 E‑mail:[email protected]
「新建ハウジングプラスワン」2011年5月号の読みどころ
5月号は4月号に続き、東日本大震災を特集しました。今回はより具体的に、東日本大震災が家づくりにどのような影響を与えるのか、独自生活者調査とつくり手へのヒアリングの結果をベースに考えてみました。
まず、現地の状況とそこから見えてきたことについて、建築家の武山倫さんに「ロバスト」をキーワードに寄稿いただきました。当面の課題については[資材][地盤][電力]の「3つのショック」に整理し、影響を解説しています。住まい手ニーズの変化や震災後の市場動向についても、独自調査の結果をふまえ考察しました。レギュラー連載者の野辺公一さん、小池一三さん、大菅力さん、野池政宏さん、秋卓生弁護士、迎川利夫さんにも、震災後の家づくりをテーマに特別寄稿いただきました。
通常連載の「伊礼智の住宅設計作法Ⅱ」は階段をテーマに豊富な写真と図面でディティールを解説いただいています。「一歩先行くFacebookでウェブ集客を最大化する方法」も注目です。
他にも読みどころいっぱいの5月号、ぜひご活用ください。
こちらから20115月号プラスワン目次 をダウンロードいただけます。
新建ハウジングの購読・試読はこちらから。
住宅ビジネスに関する情報は「新建ハウジング」で。試読・購読の申し込みはこちら。