おかあさん あんまり
あかんぼ なさないでね
おとうさん さけのんで
きかなくならないでね
とうさんが
きかなくなれば
ぼくのまなぐが
ぬけそうになる
(I分校小3 K男)
*なさないで=産まないで
*まなぐ=めだま
狭く粗末な家では、ランプのわずかな光と囲炉裏の前で、家族の時間が共有される。その濃密さはときに子どもを救いもするが、大人の諍いを目の当たりにして、傷つけもする。
少年は酒を飲んできかなくなる父親の振る舞いを見つめている。母親がまた妊娠したことにも気づいている。なのに「こんな暮らしはもういやだ」と書くことはせず、「まなぐがぬけそうになる」と自分の気持ちを言葉にした——。
この時代に生きた子どもたちの詩を集め上梓したのは、98年のことである。詩集のタイトルは「まなぐ」とした。
当時、へき地教育担当で北上山系の町や村を巡った三上信夫先生(故人)のお宅でたまたま目にした子どもの詩の束に揺さぶられ、後日、それらを段ボールごと借り受け、数百もの詩から百篇近くを選んで出版したのである。
子どもたちは知っている限りの言葉を並べ、自分の内にある感情を見事な表現で綴っている。家族、動物のこと、自然の営みや暮らしのなかの小さなこと…その眼差しは、大人たちが忘れ去ったものまでしっかりと見据え、見栄や計算など微塵もない鋭利な言葉と化して、私の虚構をぐさりとえぐってくるのだった。
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