大好きな小名浜の町を取り戻したい――。一つの思いがツイッターやブログを通して広がりはじめた。呼びかけの中心メンバーは豊田設計事務所(福島県いわき市)の豊田善幸さん。地元からの一提案として「小名浜復興計画」をまとめ、インターネットで発信している。2011年5月10日の新建ハウジングでは、トップ記事でこんなつくり手の思いと取り組みを伝えました。以下に抜粋して紹介します(編集部)。
「小名浜復興計画」には、「あたらしい小名浜をつくるための三策」という副題のとおり、小名浜復興計画にはポイントが3つある。
①持続可能なエネルギー政策の立案
②環境負荷の小さな暮らしの提案、普及
③いわきらしい街並みの保存と再生
がそれだ。
「行政もまだ、今日やることで精一杯。先の復興を考える段階ではないかもしれない。だが手をこまねいていたら、地元の思いと離れたところでいつの間にか青写真が描かれてしまうおそれがある。そうなったら後悔する」と立案者の豊田善幸さんはいう。
福島・いわき市の沿岸も津波に蹂躙され、漁港も工場も、観光施設も壊滅した。加えて、原発事故が地域に暗い影を落とし、復興に大きなブレーキをかけている。
住民にとって、震災はかたちあるものを奪っただけに留まらない。社会がその発展のよりどころにしてきた「安全神話」の崩壊とともに、暮らしの欲求を次々と実現させていく先に幸福が待っているという物語も消え去った。
小名浜復興計画はこれからの家づくり・まちづくりを通して、いまなお成長を求め続ける大量消費社会のなかで人が生きていく意味を、もう一度みつめ直してみようという投げかけでもある。
「高度成長期からバブル期は日本にとって奇跡の数十年。その時代が終わり、当時のルールはもう見直さないといけない。みなそう気づいているものの、まだ過去を引きずっている。だからこそ、いまが価値観を根底から変える最大のチャンス」と話す。
地域型の省エネ手法
小名浜復興計画が説く持続可能なエネルギーは太陽だ。これをそのまま熱に使い、給湯や暖房の多くをまかなう。太平洋に面して冬の日照時間が長い「小名浜ならでは」の提案と位置付けた。
使い方は、建物南側の開口部から直接日差しを取り込むダイレクトゲイン、あるいは集熱パネルでお湯をつくる太陽熱温水器。いずれも大きな導入コストはかからない。
が、建設地の気候を読み、個々の住宅ごとに断熱性能と日射取得をバランスするスキルが要る。
「全室暖房しながら省エネを図るには、躯体の断熱性と設備の効率をとにかく高める手法が最もシンプル。ハイスペックに重きを置き、雪の日も曇りの日も考えない。日照時間が短い寒冷地ではそのやり方もある」と豊田善幸さんはいう。
この手法は、住宅の性能品質を均一化するにも有利。熱源を一つにする「オール電化」とも相性がいい。が、それはともすれば地域への眼差しを忘れさせ、全国どこへいっても同じかたちの住宅を生む。
「冬に日射取得熱が見込める日本の各地では、従来、建物南側に窓を大きく取ってきた。この手法は確かに家の性能を下げ、曇天時の対策を要求する。かつてであれば、住む人にがまんも強いただろう。が、いまの技術を用い、かつ地域のつくり手がていねいに設計すれば、大きなコストをかけず地域にあった全室暖房の省エネ住宅をつくれる」
つづきは新建ハウジング5月10日号でご確認ください。
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