日本の工務店は
世界一の木造技術を持っている
三浦:今、この講演を聴いておられる工務店、木庵の家具のパートナーとなる工務店は、まさに木の建築を地域で担っておられます。そういった地域の工務店や板金店、大工、職人の方々に対して、隈さんはどのようなイメージを抱いておられますか。
隈:世界のいろいろなところで木を使おうと思い図面を書いてきましたが、日本の工務店のように木をうまく使い、美しい建築物が作れる人たちは世界中どこにもいません。日本の工務店は木をうまく使って、自由な間取りで、しかもリーズナブルな値段で作れる。世界一の木の技術を持っています。実は日本に居る時は気付かなかったのですが、世界で仕事をするようになって気付きました。日本の工務店の皆さんに対して尊敬の念を抱くようになりました。
板金技術についても素晴らしいです。日本は雨が多く、台風の時などは下から雨風が吹き込むこともあります。このような日本にしかない悪条件の中で雨漏りしないようにと技術を何百年も磨いてきた。この板金技術も世界一だと思います。しかも、さほど高くない値段で雨漏りをしない屋根を作る。板金職人の皆さんに対しても、尊敬のまなざしを向け始めたところです。皆さんは日本の技術に誇りを持っていただき、これを日本の武器としてがんばってほしいです。
三浦:工務店や板金店にとって勇気の出る言葉ではないかと思います。今回、植田板金店と隈事務所がコラボレーションされましたが、隈さんとして地域の板金店とコラボされた理由を教えていただけますか。
隈:植田板金店からお話をいただいた時に「何でも自分たちで考えて作ろう」というチャレンジ精神を感じました。最近、ゼネコンなど大規模な現場でチャレンジ精神が失われている中、地方でわれわれと一緒に新しいものを作るのだという気持ちが満ちていたんです。こういう人たちと一緒であれば、すごいものができるのではないかと。
実は当初、家具まで作ることは想定していませんでした。ところが小屋でCLTを切っている時に端材がたくさん出まして。その端材で家具を作れないかと植田さんの方から話があり、それは面白いなと。CLTという厚みもあって素材感ある木材を使うなんて、何と贅沢な家具なんだろうと。リサイクルと言えば今の時代に最も注目されている手法です。しかもできたものがとても格好良かった。これも日本に広めたいです。
地元の事業者と
地元で一緒に建築を
三浦:情熱と面白さがコラボレーションの動機だったと。先日、事務所に伺った際、地域に拠点を作っていきたいという話を聞きました。その目的や今やっておられることを教えてください。
隈:コロナの時にリモートで遠くの人とコミュニケーションしましたが、あまりに簡単にできるということを、思い切ればできるということを知ってしまったんです。そして、今のように東京に集まっている必要はないのではないかと。そこで面白くて個性的な土地に分散型で事務所を作ったら、楽しい事務所ができるんじゃないかと思い、北海道と沖縄からスタートしました。寒い時には沖縄に行こう。暑い時には北海道に行こうという考えです。岡山でも真庭市の森の中で工事をしています。岡山は森の聖地ですから。そういうリモートができるオフィスをそれぞれの場所に作りました。
単にそういうとこに行ってリモートをするだけではなく、その土地の人とコラボをしないと意味がありません。その土地の人たちと仲良くなって、その人たちと何かを一緒に何かを作る。これができると日本を変えるきっかけになるんじゃないかと思い始めました。
三浦:リモートオフィスには常駐スタッフもおられるんでしょうか。
隈:常駐だけでなく、東京から短期間だけ滞在する人も居ます。うちは外国人も多いのですが、彼らは日本の地方に関心を持っていて「日本の地方に行くと面白い」とか、「こんな良い所があったんだ」「これまで東京と京都しか知らなかった」という外国人もいます。彼らをそういうところに一緒に送り込んで一緒に仕事したいと思っています。
急激に地方の拠点を増やしたりはしませんが、面白い話があれば増やしていって、ネットワーク型のオフィスの在り方みたいなものを試してみたいです。デザインの世界で、世界中から注目されるようなものができるのではないでしょうか。
三浦:ネットワーク型はいいですね。地元の事業者と地元で建築を一緒に作っていくといったコラボレーションの可能性もありそうですか。
隈:それをぜひやってみたいです。若いスタッフも地元の人に揉まれることでとても育つんです。東京の設計事務所で先輩に怒られているだけというのは、今の若い人にとってはストレスになるでしょう。地方に行って地方のおじさんたちと一緒に作ったら、人間としても育ちます。そういう関係ができたらいいなと思います。
三浦:これまで縁遠いと思っていた隈さんですが、ここに参加する皆さんも何か一緒にできるのではという可能性を感じていただけたかも知れません。ぜひ木庵の家具を一緒に広めていく役割を担っていただければと思います。
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