全館空調でもCO2削減するためG2適合を義務化、それ以上を誘導水準に
総理の脱炭素宣言・加速する脱炭素議論と「たたき台」の乖離が大きい。
国益損失のリスク再認識を
今泉太爾氏(一般社団法人日本エネルギーパス協会 代表理事)
新建ハウジングでは、3省合同で開催されている「あり方検討会」(脱炭素社会に向けた住宅・建築物の省エネ対策等のあり方検討会)をうけてキーマンへの公開取材を続けている。このほど、専門家やこれまで住宅の省エネ・高性能化に取り組んできた団体のリーダーに、検討会の第3回で国交省が提示した「たたき台」の評価・感想や、今後の住宅分野における脱炭素施策への私見を寄稿いただき、検討会の竹内昌義委員に活用いただくとともに、新建ハウジングDIGITALで全文を公開する。
ここでは一般社団法人日本エネルギーパス協会代表理事・今泉太爾氏の寄稿を紹介する。
1.あり方検討会・「たたき台」について:脱炭素実現性を検討したのか
脱炭素社会に向けた検討会のたたき台なのに、脱炭素実現性を検討すらしていないことに衝撃を覚えた。
2.住宅の断熱・省エネの目標案:
●省エネ基準:G2/一次エネルギー40GJで適合義務化を
空調への要求レベルが高まり、現行の省エネ基準では、全館空調してしまうと空調エネルギーは約3倍になると推計できる。
HEAT20・G2への適合を義務化、それより上の水準を誘導基準として初めて、全館空調してもCO2が削減できるフェーズに入る。
本気で脱炭素するなら、少なくとも評価方法は間欠空調前提で半減させるレベル、一次エネルギーでも省エネ基準80GJの半分の40GJで、早急に義務化が必要である。
●ZEH:義務化ベースにロードマップ化
誘導施策なら非ZEHと税額差、自家消費+売電額の収入合算などの金融誘導を
仮に100歩譲って、もし今回ZEH義務化のロードマップを決めないのであれば、住宅購入者のZEH導入を加速度的に進めるための具体的なリカバリー案を代わりに決めるべき。
例えば、財政健全化の一環として住宅ローン減税を段階的に縮小し、ZEHと非ZEHの場合とで減税額や減税期間に差をつければ良い(既に長期優良や低炭素認定で類似制度実施済み)。
あわせて、自家消費分+売電額の一部を収入合算できるよう金融庁が通達を出せば(最低限フラット35で制度化)、ローン枠の拡大により「初期コスト出せない問題」も解消される。
これらにZEHが経済性を有するとの説明を重ねるなどして、2025年までに義務化が可能だと判断できるレベルまで早急に全力で普及率を高めることも一案と考える。
3.住宅の省エネ・脱炭素化について:平時思考から脱却、目先の損得や手間に囚われず議論を
昨年菅総理が2050年脱炭素を国際的に宣言して以来、総合資源エネルギー調査会やIEAロードマップ、G7気候・環境大臣会合の共同声明などを見ても、脱炭素に向けての議論が激変している。
たたき台の内容は上記との乖離があまりに大きく、脱炭素関係の最新動向に目を通してすらいないのではないか?と首をかしげざるをえない。
「脱炭素社会に向けた住宅・建築物の省エネ対策等のあり方検討会」にもかかわらず、国土交通省および当該委員の一部に、国際的な課題としての気候変動への真摯な取り組みの必要性や緊急性、そして何より現状の先進国の中での日本の立ち位置の際どさへの理解が圧倒的に不足していることに強い違和感を感じる。
緊急時にも関わらず、いまだ平時の思考法をとり、目先の損得や手間にとらわれることで、日本社会全体がより大きな損失をこうむるリスクが、脱炭素政策が遅れるほどに高まる現状を、国交省含め全てのステークホルダーは改めて認識すべきである。
「家の燃費」=光熱費を見える化していくということを推奨。会員数:約200社