2025年に断熱性能でG2を、
省エネ性能でZEHレベルを義務化へ
本来は室温基準や推奨室温等を確定、その実現と暖房エネルギー削減のバランスを考え断熱基準を決めたい
野池 政宏 氏(一般社団法人Forward to 1985 energy life 代表理事)
新建ハウジングでは、3省合同で開催されている「あり方検討会」(脱炭素社会に向けた住宅・建築物の省エネ対策等のあり方検討会)をうけてキーマンへの公開取材を続けている。このほど、専門家やこれまで住宅の省エネ・高性能化に取り組んできた団体のリーダーに、検討会の第3回で国交省が提示した「たたき台」の評価・感想や、今後の住宅分野における脱炭素施策への私見を寄稿いただき、検討会の竹内昌義委員に活用いただくとともに、新建ハウジングDIGITALで全文を公開する。
ここでは一般社団法人Forward to 1985 energy life代表理事・野池政宏氏の寄稿を紹介する。
1.あり方検討会・「たたき台」について:国への意見書提出を明確な目的にして議論を
そもそもこの検討会の位置づけや議論の進め方に疑問を感じる。このままでは検討会ではなくてヒアリングに過ぎない。
検討会として国への意見書をまとめることを明確な目標とし、そのための議論をしてほしい。
2.住宅の断熱・省エネの目標案:断熱性能と省エネ性能を分けて考えるべき
■新築:HEAT20/G2を2025年義務化
※目指すべき冬の室温を実現する住宅の普及を早急に実現するべきと考えるため。
■既存:2030年までに省エネ基準レベルに満たない住宅の居室を現行の仕様基準レベルに部分断熱改修
※最低限確保したい冬の室温を実現する住宅の普及を早急に実現すべきと考えるため。
<省エネ性能>
■新築:ZEHレベルを2025年義務化
■既存:2030年までに一次エネルギー消費量25%削減の実現
3.住宅の省エネ・脱炭素化について:NDC46%を前提に高い目標設定、その実現手法の議論を
断熱性能と省エネ性能は分けて議論する必要がある。断熱性能は省エネのためというよりも健康確保という視点で議論すべき。そういう意味では、本来「室温基準」や「推奨室温」といったものを確定させ、その実現と暖房エネルギー削減のバランスを考えるなかで必要な断熱性能を決めていくべきだろう。
一方、省エネ性能は純粋に温室効果ガス46%削減を前提に議論すべき。そのとき、住宅部門(家庭部門)単体としても温室効果ガス削減26%を前提とした施策から46%削減を実現させるための施策(つまり削減量を46%/26%=1.77倍とする施策)を目指すべきだと考える。
個人的な意見として、義務化は最小限にすべきと考える立場だが、WHOから出ている室温の推奨値などを考えれば、その重要性を認知させるという意味でも、目指すべき室温確保の可能性が高くなるHEAT20・G2レベルの住宅の普及に大きく踏み出すべきと考える。
そのとき、断熱性能の向上が誘導措置のみでは不十分であろうということ、またHEAT20・G2にレベルアップするための費用負担がそれほど大きくはならないという2つの理由で、上記の意見とした。また既存住宅についても、劣悪とも言える室温環境を改善する施策に向かうべきと考えるという意味で上記の意見とした。
省エネ性能については、おそらく国は関係省庁に46%削減のためにできる措置を提出させ、全体のバランスを見ながら住宅部門(家庭部門)の削減量を決め、施策を決めていくことになるのだろうが、住宅部門にいる私個人としても、Forward to 1985 energy lifeという団体の活動が目指すものとしても、住宅部門として高い目標(削減量を1.77倍に向かう目標)を掲げるべきと強く思っている。上記で書いた内容はこうした考えに基づいている。
上記で書いたことの実現はいずれも極めてハードルが高いだろうが、まずはこうした高い目標を立て、それに向かうために何ができるか、何をすべきかについて徹底的に議論したい。そのなかで「やはり困難」ということが出てくれば、それは冷静に受け止めるべきだろう。低い目標を立て、中途半端な議論で施策や我々業界の動きが決まっていくことは絶対に避けたい。
また、義務化だけではなく、さらに高いレベルを目指して「がんばっている会社」「がんばって建てた住宅」がきちんと評価されるような誘導措置などの施策を打ち出してほしい。たとえば、断熱性能以外の工夫などもしっかり評価されるような施策を強く望む。
最後に、どうしても施策として実現してほしいと考えているのが「温熱環境と省エネの教育」。とくに住宅関係者への教育システムをつくってほしい。
中長期的には、こうした教育が何よりの効果を生み出すと確信している。Forward to 1985 energy lifeはこうした視点で有用な勉強の場を提供してきており、それは大きな成果を生み出している。
2011年の東日本大震災とそれに伴う福島原発事故をきっかけに設立。住宅に関わる実務者を中心に家庭の省エネを進めている。加盟社数:正会員216社、団体会員所属社合計474社