2.省エネ基準の提案:見なし仕様基準+ポイント制度で適合&上位誘導を容易に
以上の問題点を踏まえ、住宅の供給を⽀える中⼩⼯務店、設計事務所の⼈達にも理解しやすく、⼤⼿との間の不公平も⽣じない、かつ⼀番の訴求が必要である施主にも理解しやすい省エネ基準が、義務化を前提とするならば必要と考えます。また、今回の作業は、2020年義務化を予告しながら⾒送った⾏政が、⽇本の政策⼤転換ともいえる脱炭素化の要請のなかで、22年続けてきた基準レベルを引き上げる最⼤のチャンスとも考えます。
2050年には、⽇本の住宅は当然HEAT20・G2以上のレベルで建設せざるをえないでしょうが、2022年はそれよりは低くても現実的なレベルからスタートする必要がありましょう。
しかしこの基準で必要なことは2050年までの次第に引き上げていくプロセスも同時に⽰していく必要があります。
現⾏の省エネ基準には、この22年間続いている⾒なし仕様という基準があります。これを検討すると、躯体の断熱厚さの規定は、なかなかよく出来ています。
ただ、在来⽊造と2×4に同じ基準で対応しているためか、厚さの指定が現実の⼯法から乖離している部分もあります。また、開⼝部については、この22年間に業界の製品が最も進歩した部分でもあり、これについては⼤幅な基準引き上げも対処しやすく、コスト的にも安くつき、基準引き上げに伴い更にコストダウンが期待できます。
1)⾒なし仕様+αの省エネ基準仕様の提案
こうした考え⽅から、次の表のような⾒なし仕様基準を提案します。更に、細かな計算を伴う難しい数値基準は全廃することも合わせて提案します。プレファブ住宅など特殊な⼯法に対しては別途検討することとし、2×4⼯法に対してもこれに準じて別に⾒なし仕様を決定すれば良いと思います。
基本的な考え⽅は、現状省エネ基準を踏襲し、開⼝部の基準を引き上げています。全国断熱サッシとし、ArLowE16mm ペア採⽤しています。5地域以南はArガスを必ずしも⼊れなくても良いかもしれません。外壁と床は⽊材の⼨法を考慮して HGW16kg105mmに変更します。この結果UA値は、6〜7地域はG1レベル以上となり、その他の地域では若⼲低い値です。
QPEXで計算した暖房エネルギーも表中に⽰しますが、この仕様で熱交換換気を採⽤すれば、我々のQ1.0住宅レベル1は1〜2 地域以外はほぼクリアできます。つまり、G1レベルの住宅が想定している第3種換気の住宅の暖房エネルギーよりは少なくなります。
熱交換換気は、設備の⽅で別途提案します。
この⾒なし仕様+αの住宅の暖房エネルギーを全国の主要都市で計算した結果を次の表に⽰します。
現在の省エネ基準住宅で全室暖房した場合の値(⻘⾊棒グラフ)が、5〜7地域でほぼ半減し、⼀般住宅で間欠暖房している現在の暖房エネルギーとほぼ変わらないといえましょう(⼀般住宅の暖房エネルギーは推定)。
2)躯体の断熱仕様と、設備の省エネ仕様を統合したポイント制度の提案
これと合わせて、この躯体の断熱性能⾒なし仕様と、設備の消費エネルギーの評価項⽬と合わせたポイント制を提案します。
躯体と開⼝部の断熱仕様には、この⾒なし仕様を最低限として、各部位ごとに、この上のレベルの仕様を何段階か設けます。
例えば、外壁ならば断熱厚150mm級、200mm級、250mm級、300mm級ぐらいの4段階とし、その暖房エネルギー削減効果に合わせてポイントを設定します。
開⼝部についても同様ですが、⼤事なことは現⾏の開⼝部の仕様値のように細かくしすぎないことです。空気層16mmでもガラス厚が変わると空気層が変わり、U値は変わりますが、これは同じとした⽅が簡明になります。
同様に設備系の省エネ⼿法もそれぞれポイントを振り分けます。躯体の仕様による暖冷房エネルギー(全室暖房に統⼀すると、計算が簡単になり、計算結果の精度を上げることが容易になります)の削減効果を元に設定したポイントと、次元を同じ設定でポイントを決めます。省エネ基準は、躯体0ポイント+設備ポイントを合計した⼀定の数値を基準とします。躯体のポイントを獲得すれば、設備のポイントは低くても良いことになりますが、設備ポイントにも加減を決めても良いと思います。
⼤事なことは、この基準のポイントより⼤きいポイントの住宅を省エネ5等級〜7等級などと決め、省エネ基準住宅以上の性能の住宅もシームレスに評価できるようにします。そして将来的に最低限度の仕様の引き上げを予告しながら、2030年頃にはかなり上位の仕様に引き上げていきます。
これらの仕組みの⼀番良いところは、住宅を建てるユーザーにも容易に理解でき、予算を考えながら、省エネ基準より上位の仕様を⽬指す機運を醸し出すことが出来ることです。同時に、⼯務店設計事務所にとって基準適合認定業務が著しく軽減できることです。彼らもまた、省エネ基準より上位の住宅がイメージしやすく営業活動も活発になることが期待できます。
⼤⼿のハウスメーカーにとっても何も問題はありません。ただプレファブなどの特殊⼯法向けにはきちんと同等の認証をすることが必要になります。
これまで膨⼤な解説書を作成してきた担当の⽅々は、これまでと同様バックデータを整備し続けてもらう必要はありますが、その資料は公開されていれば問題ないと思われます。
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