太陽光発電設備の設置義務化を見送ってよいのか
京都大学大学院経済学研究科 諸富徹教授
1.住宅・建築物の省エネ・断熱・創エネが焦点に
今年4月22日に菅首相が「2030年に2013年比46%の温室効果ガス排出削減」を日本の目標として表明して以来、その実現可能性や費用の大きさをめぐってすでに多くの議論が行われている。本稿では、それを達成する鍵の1つとして住宅・建築物分野を取り上げたい。
今年4月に「脱炭素社会に向けた住宅・建築物の省エネ対策等のあり方検討会」(以下、「あり方検討会」)が国交省、経産省、環境省の共管で立ち上げられ、筆者も委員として参画して住宅・建築物分野のエネルギー政策のあり方を議論している(1)。そこでの最大の論点の1つが、住宅への太陽光発電設備設置義務化の導入であり、小泉進次郎環境大臣も強い意欲を表明している。
この検討会が創設されたのは、河野太郎行政改革担当大臣の下に設けられている「再生可能エネルギー等に関する規制等の総点検タスクフォース」が、住宅・建築物のエネルギー政策に関して行ったレビューに端を発する。そこで現行政策の問題点が多岐にわたって指摘されたほか、河野大臣がみずから国交省に対し、早急に改善策を検討するよう強い要請を行ったのだ(3)。
だが結論的に言えば、上記「あり方検討会」として太陽光発電設備の設置義務化は見送りになる公算が高まっている。第4回検討会に事務局より提示された取りまとめ素案「脱炭素社会に向けた住宅・建築物における省エネ対策等のあり方・進め方」では、「住宅・建築物への太陽光発電の設置拡大に向け・・・制度的な対応のあり方も含め必要な対応を検討」、「2030年を見据え、住宅・建築物への太陽光発電のさらなる設置拡大に向けた土壌づくりを進める」と記載されたのみで、義務化に関する記述は見送られたからだ(素案6頁)。
このような結論で果たして、本当によいのか。本稿では、現行政策の課題を明らかにするとともに、「2030年温室効果ガス排出2013年比46%削減」の目標達成のためには、住宅への太陽光発電設備の設置義務化が不可欠となることを、改めて論じたい。
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